MUZMUZ 15  木 下





2024年05月06日 伝記 

やはり、映画「オッペンハイマー」を観に行きました。
世界を変えた核開発の歴史の 舞台の一こまを見逃すわけにはいかない。
映画の原案となった伝記の書名
「American Prometheus: The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer」が
端的に映画のポイントを表しているようです。
プロメテウスは 天界の火を人類に与えて、ゼウスの怒りをかい、
生きながら毎日、鷲に肝臓を食われる ギリシャ神話の神ですね。

とにかく3時間5分と長時間なので、まずは体調を整えて 気を引き締めて
映画館へ行ったが 興味深く、引き込まれて、結局トイレにもいかず、
頭も痛くはならなかった。

然し かなり判り難いところはあった。オッペンハイマー本人の
視点からの場面はカラーで、
ストローズ(米国 原子力委員会委員長、学者でなく政治家)の
視点からの場面は白黒で、
この二つの視点と時系列が 目まぐるしく入れ替わるので やや混乱する。

この監督は時系列を遡って 回想場面を使うのが得意らしい。
(映画を観終わってから、判り難かったところを ネットで調べて、
カラーと白黒の意味や、監督の手法が判ったが、
映画鑑賞中は アレッ?という感じだった)。

ドイツが核分裂実験に成功したとの 報を受け、危機感と使命感をもって、
核爆弾開発に邁進した オッペンハイマーだったが ドイツが降伏してなお、
敗戦直前で よろよろの日本におとした 原子爆弾の予想以上の悲惨さに、
懊悩の日々が始まる。

第2次大戦後、プリンストン高等学術研究所に、オッペンハイマーを
所長として招いた ストローズだが戦後、ソ連を意識しながら 水爆開発を進めたい
ストローズと 水爆開発に反対する オッペンハイマーとが衝突し
オッペンンハイマーを社会的に抹殺しようとする ストローズの策謀が描かれていく。

もう一度この映画を見直さねば、よく理解できてていないのでは との思いがあるが、
もう一度見直す気力は 今のところない。
いくつか印象に残ったところだけ 記してみる。

〇ストローズの策謀で、オッペンハイマーは ソ連のスパイの疑いを
掛けられるのだが、彼の妻の植物学者、元愛人の精神科医が 共に共産党員、
彼の弟も一時期共産党員で 彼の周囲には 共産党関係者が多く、
この時期の米国で、共産党がこんなに活発だったとは 意外な思いがした。

〇史上初めての核爆発実験は、1945年7月16日、
「トリニティ」と名付けられているが、核爆発の強大なエネルギーが
連鎖反応により、空気への引火を引き起こし、地球を破滅させるのでは
ないかとの懸念が 理論的に数学的に ほぼゼロに近いがゼロではないとの
認識にあったものの、実験は実行された。
(オッペンハイマーがこの可能性について アインシュタインに相談に
行く場面がある)。

〇戦後オッペンハイマーが トルーマン大統領に会う場面がある。
「核管理機構を創ること、水爆開発を止めること」を懇請するが、
トルーマンは 不機嫌になり「恨まれるのは作ったあなたではなく、使用した私だ」
と彼を追い返し、側近には「二度と泣き虫を ここへ連れて来るな」と言い放った。

〇アインシュタインは原爆開発の「マンハッタン計画」のメンバーには入っていない。
オッペンハイマーは 「彼の理論は40年前のもの」と映画の中では言っていて,
この超天才も 過去の人扱いされているが、
それでも 二人の会話場面が この映画で4回ほどある。
高等研究所の近くの池の畔の 二人の会話が伏線になっていて
最後にその内容が明らかになる。

オッペンハイマー「アインシュタイン博士、以前数式をもって会いに来ましたよね。
そこで私たちは、全世界を破壊させる 核の連鎖反応を開始させるかもしれないと、
思案しました。」

アインシュタイン「お覚えているよ。それがどうかしたのかね。」

オッペンハイマー「その通りになりました。」

(連鎖反応を起こして 空気に引火することはなかったが、
核の開発競争を引き起こし、地球/人類を破滅の危機に さらしているのは同じ、
ということなのでしょう)

とても見ごたえのある映画でした。

そして、核もさることながら、人類への脅威となる点では、
今後の展開次第で「AI」が、目に見えにくい形で 
人類社会への とてつもない脅威として 浸潤していくのではないかと、
その可能性が今、私の頭の中を巡っています。

今一つ、伝記小説を読みました。足利尊氏「極楽征夷大将軍」垣根涼介著、
昨年後期の直木賞作品。
数か月の待ちで、図書館から借りてきました。
この室町幕府が出来るころの話は、小説やTVでもあまり見たことなく、
私の頭から抜けていて 足利尊氏、高師直、後醍醐天皇についても
歴史で習った記憶が かすかにあるだけで、
尊氏の弟の足利直義の活躍など 全く知らなかった。
彼らの人物像へのイメージがこの小説で まったく変えさせられました。
どこまで、本当の人物像に迫っているかは 別として、史実をおさえながら
キャラクターを 描き上げていく 作家の力量はすごい。
とても面白かったが、549ページもあって、話の密度も濃いので、
結構時間がかかりましたね。

表紙のすぐ次のページに
“Don’t think, feel. Be water~ Bruce Lee (李小龍) とあって、
伝記時代小説の巻頭になぜ、
よく知られている ブルースリーのセリフや言葉が出てくるのか?

小説の最後の方、546ページで その理解が進む。
“水は方円の器に随うという 言葉がある。
尊氏という「水」は、以前まで師直と直義という器に 形作られていた。、、、、、
(略)、、、、、そして師直が横死し,直義という底が抜けることにより、
尊氏は共依存の頸木から 完全に解き放たれた。
水に形はない。高邁な夢も理念もない。時流時世に応じて その姿を変える。
低きへ低きへと 枝分かれしながら、ひたひたと進んでいく。、、、、、
(略)、、、、、

尊氏は弟の消滅により、体制側の世間 そのものになった。
当然、これら一連の戦いは 尊氏側の圧勝に終わった。“

歳を重ねて高齢になると、時間の余裕ができ、過去の知識のリニューアルや、
新しいコトに目を見開いて、見ること知ることが出来る。

高齢者の醍醐味ですね。

木下




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